知的財産法 後期第9回
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演習1:東海地方にあるA町はみかんの名産地である。A町の農業共同組合は、みかんの果樹を利用した新しいジュースを開発し、A町みかんという名前をつけて特殊形状の容器に入れて販売を開始した。地道な販売を続けていたところ、その容器形状が素敵だということと、ジュースの味が良いということで、SNSで話題になり、毎月売り上げが20%ずつ上昇している状況であった。その容器は、A町出身の工業デザイナーのNさんがデザインしたもので、Nデザイン事務所が意匠権を取得していた。
その売れ行きをみて、隣町の食品業者Bが、全く同じ形状の容器を使ってみかんジュースを売り出した。その名も、A町みかんであった。聞くところによると、BはA町にみかん農園を持っており、そこで生産したみかんを使ってジュースを作っているという。
Bのジュースが売り出されて以後、A町農業共同組合のジュースの売り上げは、上昇しつつも、伸び率は10%に落ちている。どうやら、消費者からみるとA町のジュースもBのジュースも同じように見えるらしい。
A町の農業共同組合は、A町みかんという商標登録出願をしているが、商標法3条に該当して登録できないとの拒絶理由を受けている。また、Nデザイン事務所の意匠権も満期により消滅してしまっていることがわかった。A町の農業共同組合は、Bに対しどのような対応ができるか。
授業で使用する資料
不正競争防止法の概要(経産省)
概要テキスト
逐条解説 不正競争防止法(令和6年4月1日施行版)
逐条解説 不正競争防止法(平成30年11月29日施行版)
逐条解説 不正競争防止法(令和元年7月1日施行版)
テキスト:著作権法(2021年11月) 経産省
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民法709条との相違
民法709条は、損害賠償請求権のみ・差止請求権なし
民法709条
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
不法行為による損害賠償権の要件事実
1) 故意または過失のある行為であること
2) 他人の権利、または、法律上保護される利益を侵害したこと(違法性)
3) 損害が発生していること
4) 行為と損害との間に因果関係があること
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不正競争行為の類型
不競法2条1項1号~22号
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
3つの重要な行為類型
周知表示混同惹起行為(2条1項1号)
不競法2条1項1号
他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として
需要者の間に広く認識されているものと
同一若しくは類似の商品等表示を
使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、
他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
差止請求権(不競法3条)、損害賠償(不競法4条)、それらに関連する条文(不競法5条~15条)、罰則(不競法21条,22条)の適用除外(19条)
商品若しくは営業の普通名称/同一若しくは類似の商品若しくは営業について慣用されている商品等表示を普通に用いられる方法で使用等した場合は適用除外
自己の氏名を不正の目的でなく使用等した場合は適用除外
他人の商品等表示が需要者の間に広く認識される前からその商品等表示を不正の目的でなく使用等している場合も適用除外
平成20年12月26日東京地裁
平成19年(ワ)第11899号
不正競争行為差止請求事件
/IP-Lecture-support/コメダ珈琲事件
東京地方裁判所平成28年12月19日判決 平成27(ヨ)22042
仮処分命令申立事件より
日本経済新聞 外食「模倣文化」に警鐘 コメダ類似店は営業停止
2016/12/28 より
東京地裁 平成27年(ヨ)第22042号 仮処分命令申立事件
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イッセイミヤケ事件・・「BAOBAO」と「Avancer」
令和元年6月18日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成29年(ワ)第31572号 不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成31年4月16日 (p29以降が裁判所の判断)
「商品等表示」・・商品の出所・営業の主体を示す表示
「商標」とは、商標法第二条第一項 に規定する商標(2条2項)
「標章」とは、商標法第二条第一項 に規定する標章(2条3項)
「商品」とは、市場における流通の対象物となる有体物・無体物
「営業」とは、営利を直接の目的とする事業に限らず、広く経済収支上の計算の上に立って行われる事業一般を含む
需要者の間に広く認識・・・周知とは
「広く認識」・・・宣伝広告、商品等表示内容、取引実態、取引慣行などの諸般の事情に基づき総合的に判断
周知の地域的範囲は、一地方であれば足りるとされる。
証拠・・宣伝広告の実績、販売実績(販売額、販売数量など)、営業規模(会社規模,従業員数など)、 客観性のあるアンケート結果、用語辞典への掲載など
同一若しくは類似の商品等表示・・・類否判断の手法は?・・・商標法での類否判断と同じか?
著名表示冒用行為(2条1項2号)
自己の商品等表示として
他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを
使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
差止請求権(不競法3条)、損害賠償(不競法4条)、それらに関連する条文(不競法5条~15条)、罰則(不競法21条,22条)の適用除外(19条)
商品若しくは営業の普通名称/同一若しくは類似の商品若しくは営業について慣用されている商品等表示を普通に用いられる方法で使用等した場合は適用除外
自己の氏名を不正の目的でなく使用等した場合は適用除外
他人の商品等表示が著名になる前からその商品等表示を不正の目的でなく使用し等している場合も適用除外
table: 1号と2号の比較
1号:周知表示混同惹起行為 2号:著名表示冒用行為
保護法益 業務上の信用 業務上の信用
直接の保護対象 商品等表示 商品等表示
周知性等 周知 著名
規制行為 同一類似の商品等表示の使用 同一類似の商品等表示の使用
混同の要否 他人の商品又は営業と混同 問わない
適用除外 普通名称・慣用表示・自己の氏名 普通名称・慣用表示・自己の氏名
適用除外 周知前からの善意の使用 著名前からの善意の使用
第 2 条第 1 項第 1 号でいう「周知」は、全国的に知られている必要はなく、一地方において広く知られていれば足りる
第 2 条第 1 項第 2 号でいう「著名」は、具体的には全国的に知られているようなものを想定している。
ここでは、混同を要件とせず不正競争とするのであり、保護が広義の混同さえ認められない全く無関係な分野にまで及ぶとするものであるから、通常の経済活動において、相当の注意を払うことによりその表示の使用を避けることができる程度にその表示が知られていることが必要。
なお、商品の形態についは、商品等表示としての著名性を認めることは一般には困難であるとされている。・・・「商品の形態は具体的な商品の形態として需要者に記憶されるものであるから、右形態が当該商品の分野を超えて他の種類の商品の分野にまで出所表示機能を獲得することは、一般的には困難であり、ましてや、商品の形態が、特定の種類の商品の分野を超えて、著名な商品表示となることは、ほとんど想定できない」逐条解説不正競争防止法(経済産業省 知的財産政策室編 ) P73 より
商品形態の模倣(2条1項3号)
他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を
模倣した商品を
譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
不競法2条4項 この法律において「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。
不競法2条5項 この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。
ライフサイクルの短い商品形態の模倣防止
差止請求権(不競法3条)、損害賠償(不競法4条)、それらに関連する条文(不競法5条~15条)、罰則(不競法21条,22条)の適用除外(19条)
イ 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
ロ 他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
営業秘密の保護(2条1項4号~10号)
限定提供データの保護
技術的制限手段に関する不正競争行為
ドメイン名の保護
不競法2条1項19号
十三 不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為
品質等誤認惹起行為
不競法2条1項20号
二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為
信用毀損行為
不競法2条1項21号
二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為
代理人等の商標冒用行為
不競法2条1項22号
二十二 パリ条約(商標法(昭和三十四年法律第百二十七号)第四条第一項第二号に規定するパリ条約をいう。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。以下この号において単に「権利」という。)を有する者の代理人若しくは代表者又はその行為の日前一年以内に代理人若しくは代表者であった者が、正当な理由がないのに、その権利を有する者の承諾を得ないでその権利に係る商標と同一若しくは類似の商標をその権利に係る商品若しくは役務と同一若しくは類似の商品若しくは役務に使用し、又は当該商標を使用したその権利に係る商品と同一若しくは類似の商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくは当該商標を使用してその権利に係る役務と同一若しくは類似の役務を提供する行為
不正競争行為と他の知的財産権との関係
不正競争行為と指摘された行為が、特許権、実用新案権、意匠権、商標権を有する者による行為だった場合、どのように扱われるのか?
旧第六条 第一条第一項第一号及第二号並ニ第二項、第一条ノ二第一項、第二項及第四項、第四条第一項乃至第三項、第四条ノ二並ニ第五条第二号ノ規定ハ特許法、実用新案法、意匠法又ハ商標法ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為ニハ之ヲ適用セズ
旧法・・特許権等があれば、常に請求を排斥できるとの誤解
判例・学説でも制限的に解釈・・・よって、H5年改正で削除
では、特許権、実用新案権、意匠権、商標権を有する者による正当な権利行使であるとの抗弁はもはや認められないのか?
・・・抗弁自体を認めないというものではない。
現行法・・・権利濫用でない限り、正当な権利行使の抗弁認められる。
平成13年(ワ)第2721号 不正競争行為差止等請求事件
「マイクロダイエット事件」
table: 「マイクロダイエット事件」不正競争防止法2条1項1号
原告 被告
対立当事者 サニーヘルス ホルス
商品 超低カロリー栄養食品 超低カロリー栄養食品
使用標章 昭和63年頃から商品名 平成9年初めころから商品名
「マイクロダイエット」として販売 「マイクロシルエット」として販売
商標権 なし サニーヘルスに元従業員Aが平成7年に出願した
「マイクロシルエット」をAから出願中に譲り受け
平成9年に商標登録。
裁判所の判断
原告標章は,周知の商品等表示と認められるものの,著名な商品等表示とまでは認められない。
被告標章は原告標章に類似するものと認められる。
登録商標使用の抗弁を被告が主張したことに対して、
「旧不正競争防止法6条には,同法の規定は商標法等の工業所有権法により権利の行使と認められる行為には適用しない旨を明文で規定していた。平成5年法律第47号による不正競争防止法の全面改正の際には,旧不正競争防止法6条に対応する明文の条文は置かれなかったものであるが,改正後の不正競争防止法(現行法)の下においても,権利の行使はそれが濫用にわたるものでない限り許されるとの一般原則の適用として,商標法上,商標権の行使と認められる行為であれば,それが権利の濫用に該当するものでない限り,不正競争行為該当性が否定されるものというべきである。」
「訴外Aは,原告サニーヘルスに従業員として在職中に,原告商品が好調な売れ行きを示し,原告標章が周知の商品等表示となっていることを認識しながら,これと類似する被告登録商標につき商標登録出願をしたものであり,原告標章の周知性にただ乗りする意図の下に上記商標登録出願をしたものと認められる。そして,被告ホルスは,原告標章が周知の商品等表示となっていることを認識しながら,訴外Aからこれと類似する被告登録商標の商標登録を受ける権利を譲り受けたものであり,また,その際,同被告は,原告標章が周知の商品等表示となった後に被告登録商標が出願されたことを認識していたか,又は知り得べきものでありながら過失によって知らなかったものと認められる。上記のような各事情に照らせば,被告ホルスが商標権者として被告登録商標を使用する行為は権利濫用に該当するものであり,本件訴訟において,不正競争防止法2条1項1号,2号を理由とする原告らの請求に対し,登録商標使用の抗弁を主張することもまた,権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。」とした。
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